原曲を超えた!? 少女漫画原作アニメ本格ジャズ曲11選【坂道のアポロン】

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親愛なる読者諸君!

オタクパパだ。

今回は、大人のためのアニメジャズ入門第4弾だ!

本企画は、これまで1000曲ものアニメジャズ曲を聴いてきたオタクパパが、オタクならではの視点で、大人向けのアニメジャズ曲をあらゆる角度から紹介するという企画だ。

というわけで、今回は、少女漫画が生んだ異色のジャズ青春アニメ「坂道のアポロン」のオリジナル・サウンドトラックを紹介したい。

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ジャズを題材にした少女漫画「坂道のアポロン」とは

突然だが、キミたちは、少女漫画が好きか?

私は大好きだ!

少女漫画のあのキラキラした感じ!

繊細ながらも力強い線の描き方!

キャラクターの内面に踏み込むきめ細かい心理描写!

そして何よりも、あの女性向けならではの容赦のないドロドロしたストーリー展開!

何もかもひっくるめて、私は少女漫画が好きだ!

私は小学生以来、かれこれウン十年もの間、あらゆる少女漫画を制覇してきたが、今回紹介する漫画「坂道のアポロン」は、少女漫画としては若干異色作といえる。

なぜなら、「坂道のアポロン」は、60年代の佐世保を舞台に、ジャズで結び会った高校生達の愛と青春のストーリーをドラマチックに描いた意欲作だからだ。

だが、「坂道のアポロン」はそこらへんの少女漫画とはひと味もふた味も違う!

オッサン大人が読んでも読み応えのある骨太のストーリー展開が、少女漫画とは思えないほどの高いクオリティで、そこらへんのTVドラマをはるかに凌駕しているのだ!

そこで、ジャズについて語る前に、まず、原作「坂道のアポロン」の魅力について、オタクならではの視点で徹底的に語ってみたい。

原作漫画「坂道のアポロン」の魅力

Amazonリンク 坂道のアポロン (1) (フラワーコミックス)

「坂道のアポロン」は、女性向けの月刊漫画雑誌「月刊フラワーズ」(小学館)に連載された小玉(こだま)ユキ先生による作品であり、2009年には、「このマンガがすごい!2009」(宝島社)の「マンガベスト20・オンナ編」でベストワンに選ばれた傑作だ。

「坂道のアポロン」は、恋愛要素も多い少女漫画だが、女性読者だけが読むのは大変もったいない作品だ。

なぜなら、「坂道のアポロン」は恋愛だけでなく、男同士の友情も描かれており、そのドラマ性の高さから、男性読者が読んでも十分に面白い作品だからだ。

「坂道のアポロン」をひと言でいうならば、男同士の友情と恋をテーマにした青春群像劇といえるだろう。

男同士の友情といえば、ジャンプなどでは、ヤンキー同士など、普通は似たような境遇にある者同士の友情であることが多い。

だが、「坂道のアポロン」が面白いのは、成績トップの秀才と札付きの不良という、一見何の接点もない2人の少年の熱い友情を描いた点だ。

また、時代設定が渋い!

「坂道のアポロン」の舞台は、1966年の長崎県佐世保市だ。

金持ちの息子にして成績トップの秀才・西見薫(にしみ かおる)が、船乗りの父親の都合で横須賀からひとり佐世保東高校に転校するところから話が始まる。

薫は、子供の頃から何度も転校続きで、金持ちかつ優等生のため、クラスメートと打ち解けることができず、いつの間にか周囲から心を閉ざしてしまった少年だ。

(↓)転校続きのあまり、周囲に心を閉ざしてしまった薫の孤独が伝わるカット。金持ちの息子かつ秀才の転校生ともなれば、クラスから孤立してしまうのも無理はないのかもしれない。少女漫画にしては、冒頭から重々しいシーンで始まり、先の展開が気になって読み出したら止まらない作品だ。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

しかしながら、薫は、ひょんなことから「札付きの不良」として学校で恐れられている喧嘩好きの少年・川渕千太郎(かわぶち せんたろう)に出会う。

(↓)3人の3年生相手に喧嘩をふっかけ、先生も手に負えない札付きの不良の千太郎。ボロボロの学生帽をかぶり、葉っぱを口にくわえるその姿は、まさしくドカベンの岩鬼そのものだ。高校1年生のわりに図体が馬鹿でかくて茶髪なのは、典型的な「不良のイメージ」そのもののように思われるかもしれないが、後々、読者はこれが「伏線」であることに気づいて、大きな衝撃を受けることになる。このように「坂道のアポロン」は、序盤から細かい描写に至るまで、かなり緻密に計算され尽くされているのだ。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

千太郎の幼馴染みのレコード屋の娘・迎律子(むかえ りつこ)に恋心を抱き、律子に誘われるがままに向かったレコード屋の地下室で、薫は、楽しそうに全身でドラムを叩く千太郎の姿に驚く。

なんと、札付きの不良の千太郎は、アマチュアのジャズドラマーだったのだ!

(↓)千太郎の叩く激しいドラムの響きに衝撃を受け、ジャズに目覚める薫が印象的なシーン。クラシックを題材にした作品としては、「のだめカンタービレ」が有名だが、少女漫画でジャズを題材にした作品という点で、「坂道のアポロン」は、従来にないユニークな作品だ。アニメ化において、ジャズ嫌いで知られる菅野よう子が作曲を担当したのも、ジャズを通じた男同士の友情や恋といった作品そのものの魅力によるところが大きいからといえるだろう。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

一方、子供の頃からクラシックをたしなみ、ピアノを弾くことのできる薫は、最初は千太郎に対抗すべく、ジャズピアノを練習するも、度重なるジャズセッションを通じて、次第に千太郎に心を開いていくのだ。

その少女漫画らしい繊細な心理描写とドラマチックな展開に、読者は思わず引き込まれてしまうだろう。

以下、「坂道のアポロン」の魅力について1つ1つ語ってみよう。

1966年(昭和41年)という時代背景

「坂道のアポロン」は、1966年の佐世保が舞台だ。

1966年(昭和41年)といえば、まだ生まれていない読者も多いかもしれない。

「坂道のアポロン」は、この時代特有のエピソードが多い。

60年代の日本は、モダンジャズが爆発的ブーム

1960年代は、日本中でモダンジャズがブームになった。

そのきっかけは、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの来日だ。

実際、その熱狂ぶりは凄まじく、ジャズ評論家の油井正一(ゆい しょういち)が、

「蕎麦屋の出前持ちも<モーニン>を口ずさんでいた」

と称したほどだ。

(↓)蕎麦屋の出前持ちも黒人ミュージシャンのジャズを口ずさむほど、1960年代の日本は、モダンジャズが大ブームだった!

また、コーヒー1杯でジャズのレコードを鑑賞するジャズ喫茶が流行したのも、1960年代である。

また、1966年7月には、20世紀のジャズ最大の巨人と呼ばれるジョン・コルトレーンが日本公演のために来日している。

コルトレーンは、7月14日に「坂道のアポロン」の舞台である長崎で公演を行っているのは興味深い。

だが、その翌年の1967年7月17日に若干40歳の若さで肝臓癌で亡くなっている。

「坂道のアポロン」では、コルトレーンの追悼のため、律子の父が黒のネクタイをしているシーンが描かれている。

60年代の日本は学生運動が盛んだった

例えば、千太郎が慕っていた大学生・桂木淳一(かつらぎ じゅんいち)の学生運動のエピソードなどは、まさしくこの時代だからこそ描けたエピソードだ。

1967年は、混迷を深めるベトナム戦争に協力する日本政府を非難すべく、全学連(日本の学生自治会の連合組織の略称)が激しい闘争を行った時代だ。

「坂道のアポロン」では、1968年1月に起こったアメリカ海軍の原子力空母エンタープライズの米軍佐世保基地への入港に反対する佐世保エンタープライズ寄港阻止闘争のエピソードも描かれている。

(↓)佐世保エンタープライズ寄港阻止闘争を描いたシーン。「おっそろしか! こりゃあなんの騒ぎね!」というお婆さんのセリフが、反対運動に熱心な学生達との温度差を暗示している。この後、新宿騒乱などの事件を経て、学生運動は次第に大衆の支持を失っていくことになる。デモを迷惑そうに見ている大衆のカットが、まさしく学生運動のその後を暗示しているといえるだろう。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

戦後の長崎・佐世保が舞台

「坂道のアポロン」の舞台は、長崎県の佐世保だ。

なぜ、佐世保市か?

それは、原作者の小玉ユキが佐世保市出身だからだともいえる。

実際、漫画の舞台となった佐世保東高校は、小玉ユキが通っていた長崎県立佐世保北中学校・高等学校がモデルになっている。

だが、歴史的にみて、佐世保市はジャズと切っても切れない関係にある。

戦後間もなく、日本は、進駐軍の占領下にあった。

特に、1950年は朝鮮戦争が勃発し、佐世保基地がアメリカ軍を主体とする国連軍の補給基地として重要な役割を果たした。

その際、アメリカから多くの娯楽が佐世保市に持ち込まれ、米軍兵士の相手をする女性達やミュージシャンが多数集まった。

その当時の佐世保市内には、民間のダンスホールやキャバレーが15カ所ほど、米軍関係のクラブが9カ所あったそうだ。

街の中は、米軍兵士たちや、彼らに連れられた女性たちであふれ、満員のダンスホールでは水兵たちが日本人女性とジルバやブルースを踊り、明日をも知れぬわが身への不安を吹き消すようにドルを使っていたという。

そしてそのいずれもがバンドを抱えており、その数は30バンド以上、200人以上ものミュージシャンが佐世保市に集まっていたという。

その中には、当時のナンバーワン・ジャズ・トランペット奏者の南里文雄(なんり ふみお)をはじめ、スマイリー小原(おはら)、テナーサックス奏者の原信夫(はら のぶお)、ジャズドラムスの神様・ジョージ川口(かわぐち)など、戦後の日本ジャズ界で大活躍したジャズプレイヤーもいたそうだ。

参考

「ながさきにこり」は、県の地方機関、市町、学校、病院、金融機関など、県内の公的機関に配布しております。

このように、当時の佐世保市は、最高のジャズプレイヤーが集まる活気のある場所だったのだ。

また、1966年のクリスマスの時点で、薫と千太郎は16歳なので、彼らは1950年生まれだ。

実は、この年齢設定も、「坂道のアポロン」の人物造形において重要な要素となっているといえるだろう。

アニメ「坂道のアポロン」の魅力

次に、アニメ「坂道のアポロン」の魅力に迫ってみよう。

渡辺信一郎監督×菅野よう子の黄金タッグによるアニメ化

Amazonリンク 坂道のアポロン 第1巻 Blu-ray 【初回限定生産版】

「坂道のアポロン」は、世界的な大ヒットアニメである「カウボーイビバップ」を生んだ渡辺信一郎監督と菅野よう子の黄金タッグでアニメ化された。

これまで数多くの傑作を生み出してきた渡辺監督だが、実は、原作もののアニメ化作品の監督を担当するのは、「坂道のアポロン」が初めてだったそうだ。

だが、渡辺監督は、原作を読んで、

原作がいい作品なのに、音楽に全く興味がなかったり、ジャズのジャの字も知らない他の監督がアニメを担当したら、残念な作品になってしまうんじゃないか? ジャズを知らない他の監督がやるより、俺がやったほうがいいんじゃないか?

と感じ、

「これは自分がやるべき作品だ!」

と思ったそうだ。

実際、渡辺監督は、もともと音楽に対する造詣が深く、ロビン西の漫画「マインド・ゲーム」のアニメ化では音楽プロデューサーとしてもデビューしているほどなのだ。

また、周囲に心を閉ざした薫と、過去に心の傷を負った千太郎がジャズを通じて互いに理解し合い、つかの間の夏休みのようなひとときを過ごすという展開が好きだった、というのも「坂道のアポロン」のアニメ化を引き受ける決め手になったそうだ。

参考

坂道のアポロン (2/5) - 菅野よう子、小玉ユキ、渡辺信一郎 現場では聞けなかった質問交換会 - コミックナタリー 特集・インタビュー

天才若手ミュージシャンが演奏を担当

ところで、原作漫画のストーリーから、次のように思う人もいるかもしれない。

「原作では、アマチュアの高校一年生が演奏しているんでしょ? 

 だから、どうせアニメの演奏も大したことないんじゃないの?」

だが、それは大きな誤解だ!

なぜなら、原作ではたしかにアマチュアの高校一年生の演奏だが、アニメ化に当たっては、天才レベルのジャズドラマーとジャズピアニストが演奏を担当しているのだ。

アニメにおいては、千太郎のドラム演奏をドラマーの石若駿(いしわか しゅん)が担当し、薫のピアノをピアニストの松永貴志(まつなが たかし)が担当している。

ドラマーを担当した石若駿は、13歳からクラシックパーカッションを始め、10歳から札幌ジュニアジャズスクールに在籍して本格的にドラムを演奏し、東京芸術大学音楽学部器楽科打楽器専攻を首席で卒業し、新人賞トリプル受賞という快挙を成し遂げた若き俊英だ。

参考

石若駿 オフィシャル・ウェブサイト Shun ISHIWAKA Official Website

また、ピアノを担当した松永貴志は、若干13歳にして、ジャズピアノの巨匠ハンク・ジョーンズに「ずば抜けた演奏」と絶賛され、15歳でプロデビューを果たした後、ジャズの名門、米ブルーノートレーベル70年の歴史上、最年少リーダー録音記録を樹立し、世界中から高い評価を受けた天才ピアニストだ。

参考

こだわりぬいた演奏シーンの作画

「坂道のアポロン」の演奏シーンにおいては、彼ら石若駿、松永貴志の両者がアドリブを加えて自由に演奏したシーンを10台ものカメラを使って実写を撮影した上で、それをアナログで描き起こしたため、普通の倍もの労力がかかり、現場は大変だったそうだ。

CGを使えば手間を省くこともできるが、渡辺監督は、全面CGにしてしまうと、人形が動いているような感じになってすごく嘘っぽくなってしまうため、あくまでアナログにこだわったという。

CGが向いていない理由として、渡辺監督は次のように語っている。

演奏シーンって、物語上でもすごく大事な役割を果たしているんです。例えば文化祭のシーンでも、2人に溝ができるんだけど、演奏をすることで気持ちがつながっていく。ただ演奏してるってわけじゃないんで、人形みたいな動きじゃダメなんです。あと、手で描いたがゆえの独特の生々しさみたいなものが出るんですよ。本当にこのキャラクターが演奏しているような感じ。ただ、動きが合ってるねっていうだけじゃなくてね。まあ、コストも労力もかかるんですが、アポロンでここをちゃんとやらんと興ざめだろうということで頑張ってもらっています(笑)。

引用 「コミックナタリー」インタビュー

また、渡辺監督は、

本当にキャラクターがそこにいて演奏している

という感じを表現するために、演奏シーンを細かくカット割りせず、あえて長いカット割りを入れて、キャラクターの体温が伝わるように心がけたそうだ。

このように、アニメ「坂道のアポロン」は、まさしく、渡辺監督ならではの音楽へのこだわりが結実した作品といえるだろう。

参考

毎週『ノイタミナ』に関わるクリエイター達にスポットを当てたインタビュー記事を公開!:渡辺信一郎監督『坂道のアポロン』監督、『残響のテロル』監督
坂道のアポロン (3/5) - 菅野よう子、小玉ユキ、渡辺信一郎 現場では聞けなかった質問交換会 - コミックナタリー 特集・インタビュー

原作と同じシチュエーションで演技指導する徹底ぶり

上で述べたように、「坂道のアポロン」には、天才クラスのジャズミュージシャン達が演奏を担当している。

だが、これら天才ミュージシャン達に自由に演奏させた場合、音楽としては完璧かもしれないが、ジャズを学び始めた高校生のリアルなドラマとしては失格だ。

そこで、「坂道のアポロン」では、原作の雰囲気を極力壊さないようにすべく、細かい演技指導も行っているそうだ。

具体的な演技指導の一例として、渡辺監督は、

「好きな女の子が見に来てて、最初は調子が出ないが、ピアノにバンバン煽られて何くそと(ドラムを)叩き始める」

という例をあげている。

ちなみに、中盤に登場するロックバンド・オリンポスの演奏は、「カウボーイビバップ」の音楽を担当したシートベルツが担当しているそうだ。

菅野よう子の実質的なバンドマスターである超絶ギターのうまいギタリストである今堀 恒雄(いまほり つねお)がギターを演奏しているそうだが、渡辺監督は、

「ギター覚えたての奴が目一杯テンパって弾いてる感じ」

で演奏してもらっているそうだ。

参考 

坂道のアポロン (3/5) - 菅野よう子、小玉ユキ、渡辺信一郎 現場では聞けなかった質問交換会 - コミックナタリー 特集・インタビュー

また、菅野よう子は、「坂道のアポロン」における音作りを「ドキュメンタリー」と称し、次のように述べている。

それが今回は、主人公2人と同世代の若いピアニストとドラマーが、本当に初めて会って、初めてセッションをしているところから録ってるんで、ドキュメンタリー。もちろんお互いがどういう感じかわかんないので、音楽で会話をしますよね。そうすると、「お前ちょっと違うんじゃないの」とか「グルーヴしてないじゃん」とか、そういうお互いの葛藤とか会話とかが、音楽の中から聞こえてくるんですよ。それをそのまま録っている感じ。

このように、「坂道のアポロン」の収録では、実際に若いミュージシャン達に原作と同じシチュエーションで「演奏上のお芝居」をしてもらうことで、原作と同じ雰囲気が出るようにさまざまな工夫を懲らしているのだ。

参考 

坂道のアポロン (2/2) - 菅野よう子、小玉ユキ、渡辺信一郎 現場では聞けなかった質問交換会 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

実は、学園祭の音楽シーンは、演奏者のアドリブによるものではなく、菅野よう子の演出が大きな役割を果たしている

以下は、渡辺監督のインタビューから一部抜粋したものである。

アポロンの演奏シーンの大半は、スタンダード曲をドラムの石若駿、ピアノの松永貴志がアドリブを大きく加えて自由に演奏したものですが、7話に関してだけは違うんです。アドリブを交えながら演奏が最高に盛り上がっていくというようなシーンは、視聴者が全員ジャズ好きではないわけですから、そういう人にも説得力があるような演奏にしないといけない。演奏者の二人が盛り上がって演奏したとしても、それが視聴者の盛り上がりとリンクするかどうか分からない。でもそこは、菅野よう子だったらできる、という目算があったあのシーンだけは、本当のアドリブではなく、あたかもアドリブで盛り上がっていくように聞こえるアレンジを彼女があのライブシーンのために書いているんです。それをミュージシャンたちが完璧に演奏してくれた。もし菅野さんがやれないということになっていたら、演出を変えていたかもしれません

引用 「ノイタミナ」渡辺信一郎インタビュー(下線は筆者)

このように、学園祭のシーンは、菅野よう子だからこそ、あれだけ感動的なシーンになったといえるのだ。

原作者・小玉ユキ先生も衝撃を受けた音楽の完成度の高さ

このように、「坂道のアポロン」の等身大の雰囲気を出そうと、渡辺監督や菅野よう子が作った音楽は、原作者である小玉ユキ先生もまったく文句のつけようのないクオリティに仕上がったそうだ。

実際、小玉ユキ先生が最初のセッションの見学にいったとき、

頭の中で鳴っていた音がそのまま再現されている

ことに驚いたそうだ!

彼女は、このときの衝撃を次のように表現している。

アニメでの、本当に生の音が聴こえてしまうっていう驚きと、それをキャラクターが実際に叩いてるように見えるっていうのは、マンガでは絶対できない……なんでこんなことになったんだって、信じられない気持ちですよ。

原作者の頭の中に流れていた音楽がそのままアニメで再現されている。

これぞまさしく、渡辺監督と菅野よう子という黄金タッグの絶え間ない努力の賜物に対する最大限の賛辞といえるだろう。

【余談】優等生と学年一のワルの友情なんてありえない!?

ここで少し余談だ。

「坂道のアポロン」では、優等生である薫と、札付きのワルの千太郎が友情で結ばれるというストーリーが話の核になっているが、そんなことが実際にあるのだろうか?

「そんなマンガみたいな都合のいい話あるわけねーだろ!」

「これだから少女漫画は、リアリティに欠けるんだよ!」

特に、ヤンキーから手ひどい目に遭った人はそう思うかもしれない。

だが、渡辺監督によると、これはあながちフィクションでもないそうだ。

なぜなら、渡辺監督自身、小学生の頃、勉強ができる優等生だったが、学校一のワルと友達だったそうだ。

しかも、友達になった理由が、同じ音楽(KISS)が好き者同士だったという、薫と千太郎とまさしく理由だったという。

同じ学年にKISSのファンが渡辺監督とその不良しかいなかったため、仲良くなって毎日遊びに行っては、KISSのレコードを聴いたり、研究会を開催していたそうだ。

オタクパパの高校時代の「黒歴史」

また、私事で恐縮だが、私自身も高校時代、薫と同じく、勉強ばかりしていて周囲に全く溶け込めないコミュ障気味のオタク少年だったが、クラスでなぜかよく話をするクラスメートが学校一の不良だった。

しかも、その不良、私の高校では、千太郎と同じ番長格だっただけでなく、中学生の頃、周囲の学区の中学校の番長達と果たし合いをしたあげく、それらの番長を全て喧嘩で打ち負かして支配した伝説の総番(大番長)だったのだ!

え? なんでそんな大番長とコミュ障気味のオタク少年の仲が良かったかって?

実は、その大番長は、大のアニメ・マンガ好きだったのだ!

大番長は、私に向かって、事ある毎に、

「おい、おまえ最近、面白いアニメ知らねーか? オレ、今このアニメにハマっててな! 他にもっと面白いアニメがあったら、教えてほしいんだ!」

という感じに話しかけ、マイナーな少年誌をもってきて、

「おい、この漫画読んでみろよ! すげー面白いぜ!」

と、無邪気な子供のような目をして、いかにも楽しげに話しかけてきたものだ。

そのためか、大番長が去っていった後、他のクラスメートが怯えた様子で私に近づき、

「おまえ、アイツとフツーに話しているけど、怖くねーの? 

 おまえ、ひょっとして、裏番?」

と、さんざん不思議がられたものだ。

渡辺監督や私の実体験からも分かるように、音楽やオタク趣味など、共通の趣味があれば、優等生と学校一の不良との友情もリアルにありうるのだ。

なお、私の高校時代のエピソードについては、以下に詳しく書いてあるので、興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてほしい。

優等生・オタクとヤンキーとの友情はリアルにありうるか?【リアル黒歴史】
親愛なる読者諸君! オタクパパだ。 前回、少女マンガ「坂道のアポロン」(小玉ユキ)の紹介記事において、学年一の優等生と学年一のワ...

それゆえ、「坂道のアポロン」の薫と千太郎のような友情は、決してありえない話ではないといえるだろう。

以上、余談だ。

「坂道のアポロン」サントラのジャズ11曲のレビュー

それでは、「坂道のアポロン」オリジナル・サウンドトラックの各曲の簡単なレビューをしていこう。

なお、本記事は、大人のためのアニメジャズ入門なので、サントラのうち、11曲のジャズ曲に絞ってレビューしていく。

【第3曲】Moanin’

Amazonリンク Moanin

第3曲目は、「坂道のアポロン」のジャズテーマ曲ともいえるアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのMoanin’だ。

アート・ブレイキーは、ジャズ史上最高のドラマーといわれるほどの伝説のドラマーだ。

1961年1月、ジャズドラマーのアート・ブレイキーとザ・ジャズ・メッセンジャーズが来日して演奏し、

「蕎麦屋の出前持ちも<モーニン>を口ずさんでいた」

という、都市伝説が生まれたほど、日本中で大ヒットした1960年代のモダンジャズを代表する名曲だ。

ちなみに、「Moanin’」のタイトルの由来だが、原形「moan」には「うめく、嘆く」という意味があり、似た発音のモーニング(Morning、朝)もかけて、「朝が来るたび俺はうめいているんだ」という意味が込められているそうだ。

参考

アート・ブレイキーがこの曲のアルバムを発表した1958年の1年前には、アーカンソー州の知事が州兵を高校に送って黒人学生の登校を阻止したという騒動が起こっている。

この騒動は全米のテレビで大々的に報じられ、リトルロックの市長の要請に応じて、合衆国軍の第101空挺師団の護衛付きで9人の黒人学生が登校したが、校内では白人生徒による激しいいじめや暴力的な嫌がらせが続いたため、いじめに耐えかねて1人が中退している。

参考

このように、モーニンは、当時の激しい黒人差別に苦しんだ黒人達の苦悩を表し、救いのない曲のように思える。

モーニンは、ゴスペルのコールアンドレスポンス(call and response)を取り入れている。

コールアンドレスポンスとは、

演奏者が観客に呼びかけ(call)、それに対して観客が答える(response)

という掛け合いのことだ。

この掛け合いにより、演奏者と観客は対話を通じて盛り上がることができる。

モーニンの場合は、ピアニストが演奏した呼びかけのフレーズに対し、ホーンがそのフレーズに呼応したフレーズを演奏して答える形で対話を進めていくのが特徴だ。

具体的には、次のような感じだろうか。

ピアノ「タッタ ターララーラ タッタ〜!」

   (俺は毎朝、人種差別でうめいているんだよ!)

ホーン「ターンタ!」

   (アーメン! 主よ憐れみを!)

実は、この「モーニン」の構造は、「坂道のアポロン」の物語の構造にそのまま当てはまるのだ。

なぜなら、ピアニストの薫の苦悩の叫びに対し、ドラマーの千太郎がその苦悩に応えるという形になっているのだ。

ちょうど次のような感じに。

  薫「タッタ ターララーラ タッタ〜!」

   (俺は毎朝、孤独で吐き気がして、うめいているんだよ!)

千太郎「ターンタ!」

   (アーメン! 主よ憐れみを!)

このように、薫と千太郎がピアノとドラムを通じて互いに掛け合いを行い、薫の苦悩の叫びに対して、千太郎が「アーメン!」と応えることにより、薫の苦悩が救われるという構造になっているのだ。

そういう意味で、千太郎がカトリック信者という設定も決して偶然ではない。

このように、「モーニン」は、千太郎との出会いによって薫の苦悩が救われるという、テーマを表す曲であり、だからこそ、「坂道のアポロン」のジャズテーマ曲として多用されているのだ。

そういう観点で、もう一度「坂道のアポロン」を読み返してみるといいだろう。

きっと新たな発見があるはずだ!

【第4曲】Bag’s Groove

Amazonリンク Bags Groove

第4曲目は、Bags’ Grooveだ。

Bags’ Grooveを収録したアルバムは、1954年12月24日のクリスマス・イヴに吹き込まれたため、「クリスマス・セッション」として知られる。

ちなみに、Bagsというのはヴィブラフォンを担当したミルト・ジャクソンのあだ名で、夜のパーティでの飲み過ぎにより、目の下にたるみ(bags)が出来たためだといわれている。

参考

また、Grooveには「レコードの溝、楽しい(ノリノリの)時」の意味があり、「Bags’ Groove」には、

「ミルト・ジャクソンのノリノリで楽しい曲」

という意味が込められているそうだ。

原曲のトランペットを担当したのは、ジャズの帝王として知られるトランペッターのマイルス・デイヴィスだ。

ピアノを担当しているのは、セロニアス・モンク。

原曲は、ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンもセッションに加わり、淡々と流れるような感じの若干気だるい大人のジャズだ。

原曲では、

マイルスのトランペットソロ

 ↓

ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンソロ

 ↓

モンクのピアノソロ

 ↓

マイルスのトランペットソロ

と続くが、モンクは、ミルト・ジャクソンのときはバックでピアノを弾きまくっているのに、なぜかマイルスのときだけはピアノをまったく弾いていない。

これは、マイルスがモンクに向かって、

「俺のソロの最中は、バックでピアノを弾かないでくれ」

と指示したためであり、モンクが(怒りのあまり)ピアノの演奏を止めたことから、マイルスとモンクの間で、喧嘩腰のムードの中でセッションが行われたとして、長年「クリスマス・ケンカ・セッション」とも呼ばれてきた、いわく付きのセッションだ。

マイルスの自伝によれば、これはモンクのピアノが合わないと感じたマイルスの音楽的な指示によるものであり、喧嘩はなかった(らしい)。

このような背景を知った上で、菅野よう子の演出によるBags’ Grooveを聴いてみよう。

「坂道のアポロン」版は、オリジナルのマイルス盤よりもテンポが早く、3人のセッションに薫が体当たりでいきなり飛び込んでいく初々しさが表現されている。

(↓)初めてジャズの生セッションに飛び込んだ薫の魂の喜びが伝わってくる印象的なカット。それまで孤独でムスッとした表情が多かった薫が初めて見せる心からの笑顔だ。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

このセッションでは、淳一のトランペットソロに薫のピアノが積極的に絡んでいく点が、原曲の喧嘩セッションとの一番大きな違いだ。

この薫の淳一に対する積極性が後のストーリー展開に大きな影響を与える。

実際、淳一が千太郎に黙って東京行きを決意したとき、淳一と千太郎との間をとりもとうとする薫の積極的な絡みがあったからこそ、淳一と千太郎との最後の喧嘩セッションが実現したともいえる。

このように、原曲の背景を知ることで、より深く「坂道のアポロン」のストーリーを楽しむことができるのだ。

というわけで、菅野よう子演出のBags’ Grooveは、初めてのジャズセッションに笑いが止まらない薫の興奮する姿が目に浮かぶようなノリノリのグルーヴィーな曲に仕上がっているといえるだろう。

【第5曲】Blowin’ The Blues Away

Amazonリンク Blowin the Blues Away

第5曲は、Blowin’ The Blues Awayだ。

原曲は、ファンキー・ピアノの元祖、ホレス・シルヴァーの作品だ。

ファンキー(funky)とは、元々黒人特有の体臭を意味する隠語で、それから転じて、

黒人らしい野性的で躍動感のあるリズムや演奏

などの形容に使われるようになった言葉だ。

そのため、黒人的なブルースやゴスペルの影響を受けたジャズをファンキージャズという。

この曲も、躍動感あふれる激しいリズムの曲だ。

「坂道のアポロン」では、米兵の集まるバーのクリスマスパーティーでのセッションに使用された。

いきなり現れた百合香の姿に思わず気を取られ、うわの空でドラムを叩く千太郎の目を覚まさせるように激しく叩きまくる薫のピアノ。

そして、目覚めた千太郎のドラムが薫のピアノに応じるように激しく鳴り響く。

ちなみに、Blowin’ The Blues Awayとは、「ブルースを吹き飛ばす」という意味だ。

その名のとおり、薫達のブルーな気分を吹き飛ばす爽快で疾走感あふれる曲といえるだろう。

【第6曲】Satin Doll

Amazonリンク Satin Doll

第6曲は、Satin Dollだ。

「坂道のアポロン」のアニメ化においては、山本幸治(やまもと こうじ)プロデューサーの意向で、毎回演奏シーンを入れることになっていたそうだ。

だが、石若駿、松永貴志の両者がアドリブを加えて自由に演奏したシーンを10台ものカメラを使って実写を撮影した上で、それを逐一アナログで描き起こしていたため、普通の倍もの労力がかかり、現場は瀕死の状態だったそうだ。

そのため、録音済みであるにもかかわらず、アニメで使用されなかった曲がある。

それがこのSatin Dollだ。

アニメでは、淳一と百合香が街を去って行った後、3年への進級を前に薫と千太郎が地下室でセッションしているときに、千太郎が薫の演奏を

「ボン 今んとモンクのごたったやっか かっこよかなぁ」

(セロニアス・モンクみたいで格好良かった)

と褒めるシーンで使用される予定だったそうだ。

Satin Dollは、デューク・エリントンとビリー・ストレイホーンによって作曲されたジャズの定番中の定番ともいえるスタンダードだ。

ちなみに、Satin Dollの由来だが、Satin Dollには「繻子(しゅす)の人形」という意味がある。

この曲はもともと、デューク・エリントンの親友であったアメリカン・バーレスクの黒人ダンサーにしてストリッパーのトニー・エリング(Toni Elling)のために作曲された曲だそうだ。

トニー・エリングは、芸名としてSatin Dollを名乗るようになったという。

参考

ところで、千太郎があげたピアニストのセロニアス・モンクは、デューク・エリントンの影響をかなり受けており、デューク・エリントンの作品も数多く演奏している。

初めてモンクを聴いた人は、

「なに? このへたっぴ?」

という感想を抱くかもしれない。

実際、モンクは、独学でピアノを勉強していたためか、その演奏は独特でクセがある。

モンクは、不協和音をわざと多用し、酔っ払っているかのような間のとり方など、演奏がとにかく型破りなのだ。

あまりに演奏が個性的すぎるので、マイルス・デイビスから「俺のソロの最中は、バックでピアノを弾かないでくれ」とモンクに指示したクリスマス・ケンカ・セッションのエピソードについては、上で紹介したとおりだ。

独創性がありすぎて、あのマイルスでさえバックにするのを避けたがったモンクの個性的な演奏がジャズミュージシャン達に理解されるまで、実に15年もの歳月がかかったのだ。

それだけ個性的なモンクの演奏を高校生である薫がマスターし、その良さを理解した千太郎が格好いいと褒めまくる。

おまえら何者なんだよ!?

本当にアマチュアの高校生かよ?

だが、サントラのSatin Dollは、モンクの演奏ほどぶっ飛んだものではないので安心して聴いてほしい

なお、サントラのSatin Dollは、後にDVD販売の紹介曲としてしっかり使用されていたりするので、完全な未使用というわけでもない。

【第12曲】But not for me 

Amazonリンク チェット・ベイカー・シングス

第12曲は、But not for meだ。

「坂道のアポロン」では、米兵の集まるバーのクリスマスパーティーでのセッションでBlowin’ The Blues Awayを激しく演奏する薫たちに、酔っ払いの白人から

「わしゃーそういう黒人のジャズは嫌いなんだ! 

 さっきからドカドカうるさくてかなわん! 

 やるんなら白人のジャズをやれ!」

引用「坂道のアポロン」小玉ユキ

と文句をいわれる。

千太郎が起こってセッションを離脱してしまう最悪な雰囲気の中、淳一が機転をきかせ、薫とデュオで演奏するのがこの曲だ。

原曲は、アメリカ西海岸一帯で演奏されていたウエストコート・ジャズの代表的なトランペット奏者にしてヴォーカリストのチェット・ベイカーの曲だ。

チェット・ベイカーは、1950年の半ばには、黒人トランペット奏者にして、モダン・ジャズの帝王マイルス・デイヴィスを凌ぐほどの人気を誇っていた白人トランペット奏者だ。

酔っ払いから「黒人のジャズは嫌いだ! 白人のジャズをやれ!」と文句をいわれ、黒人トランペット奏者のマイルス・デイヴィスより人気のあった白人トランペット奏者の曲を出してきたところは、さすがは淳一アニキというところか。

(↓)とっさの機転により、But not for meを歌う淳一。ジェームズ・ディーンばりのイケメン青年である淳一に百合香の視線が釘付けになる。トランペット片手に歌う淳一の姿は、若き日のチェット・ベイカーに似ていなくもない。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

チェット・ベイカーの魅力といえば、中性的で甘い歌声だ。

彼の歌声を聞いていると、ときどき女性が歌っているのじゃないかと錯覚することもあるくらいだ。

実際、少年時代のチェットは「女の子のような声」で歌っていたらしく、それを嫌った父親がトランペットを買い与えたところ、チェットは歌だけでなく、トランペットも吹けるようになったそうだ。

また、チェットは中性的な歌声だけでなく甘いマスクにより、数多くの女性を魅了し、

ジャズ界のジェームズ・ディーン

ともいわれるほどだ。

要するに、チェット・ベイカーは、どことなくイケメンの淳一に似ているのだ。

それゆえ、「坂道のアポロン」のキャラクターの考察にあたって、

薫 → ビル・エヴァンス

淳一 → チェット・ベイカー

と考えてみると、興味深い発見があるかもしれない。

さて、サントラでトランペットを担当したのは、トランペット奏者の類家心平(るいけ しんぺい)だ。

類家心平は、10歳の時に小学校の吹奏楽部に入部してトランペットを、海上自衛隊の音楽隊でトランペットを担当していたという異色の経歴の持ち主だ。

自衛隊を退官した後、6人組のジャズ系ジャズバンドurbのメンバーとしてメジャーデビューし、その後、3枚のアルバムを発売して、J-JAZZのランキング一位を獲得した。

「機動戦士ガンダム サンダーボルト」の作曲を担当したジャズミュージシャン・菊地成孔のファンでもあり、菊地成孔ダブ・セクステットやDCPRGでも共演している。

参考

一方、ヴォーカルを担当したのは、ギタリストにしてシンガーソングライターの古川昌義(ふるかわ まさよし)だ。

古川昌義は、7歳頃からクラシックギターのレッスンを受け始め、11歳のときに兄とジョイントリサイタルを行い、12歳の頃に、第1回ギター新人大賞選考演奏会で2位に入賞したそうだ。

また、SMAPや嵐、中島みゆき、福山雅治などさまざまなアーティストのツアーやレコーディングに参加し、NHK朝の連続テレビ小説「甘辛しゃん」等のTVやCM音楽まで手がけている。

参考

この2人のコラボレーションにより、白人の酔っ払いも認め、一発で百合香の心も射抜いたヒーロー、淳一のトランペットと甘いボイスが再現された。

チェット・ベイカーの原曲も素晴らしいが、「坂道のアポロン」のBut not for meもゆったりとテンポよく、淳一の大人の余裕を感じさせる素晴らしい曲に仕上がっている。

そのあまりの格好良さに、百合香でなくとも一発で惚れ込むこと間違いなしのクオリティの高さだ!

この曲を聴いて、大人のジャズのヴォーカルの魅力をぜひ感じてほしい。

【第13曲】My Favorite Things

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第13曲は、My Favorite Thingsだ。

原曲は、律子が大きな影響を受けた映画「サウンド・オブ・ミュージック」のうちの一曲だ。

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雷を怖がる子供達がマリア先生の部屋にやってくる場面、マリア先生がトラップ家に帰ってきた場面で歌われる。

映画は1965年に公開されたが、ミュージカルの劇中曲をもとに、ジョン・コルトレーンが1961年にカバーし、ジャズのスタンダード・ナンバーとして知られる曲だ。

「坂道のアポロン」では、最後の文化祭で、華のない2人の男と親父のジャズトリオでは、オリンポスに勝てないと思った薫が、律子にこの曲を歌ってもらうようお願いする。

実は、サントラの曲も、律子の声を担当した南里侑香(なんり ゆうか)が歌っている。

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サントラのMy Favorite Thingsは、ジャズ初心者の律子の初々しさと可愛らしさがうまく表現されている

また、薫のピアノソロがドラマチックに曲を盛り上げており、律子のヴォーカルの魅力をうまく引き出しているだろう。

【第16曲】Lullaby Of Birdland

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第16曲は、バードランドの子守唄だ。

原曲は、イギリス生まれのジャズピアニストのジョージ・シアリングが作曲した。

ジョージ・シアリングは生後間もなく盲目となるが、3歳でピアノを始め、クール・ジャズの第一人者として活動し、数多くのスタンダード・ナンバーを生み出した天才ピアニストだ。

そのジョージ・シアリングが1952年にニューヨーク市マンハッタンでジャズの黄金時代のメッカとして知られ、モダン・ジャズの父、チャーリーパーカーのあだ名に由来したジャズ・クラブ「バードランド」にちなみ、この「バードランドの子守唄」を作曲した。

その2年後、アメリカのジャズシンガーのクリス・コナーが「バードランドの子守唄」を発売し、2万枚のセールスを記録し、代表作となった。

「坂道のアポロン」では、子供の時以来、離ればなれになっていた母親と東京で再開した薫が、長崎への帰り際に渡したレコードアルバム(上の画像)の1曲目だ。

薫は母親に、このバードランドの子守唄を聴いて、次に会いに来るときまでに歌の練習をしておいてほしいと伝える。

若いときと違って声がかすれてしまったという薫の母親に向かって、千太郎が、

「ジャズはハスキーな女の人が歌うとが良かとです」

というように、クリス・コナーは、そのハスキーボイスでバードランドの子守唄をブルージーに歌い上げる。

バードランドの子守唄は、聴いていてなぜか切なくなる歌だ。

サントラでバードランドの子守唄を歌うのは、女性シンガーの手嶌葵(てしま あおい)だ。

2005年、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーと宮崎吾朗監督が、米国映画「ローズ」の主題歌「The Rose」のカバー曲を聴いて彼女の歌声に惚れ込み、無名ながらジブリ映画「ゲド戦記」のテーマソングを歌う歌手にいきなり抜擢され、ヒロイン・テルー役の声優も務めることになった経歴の持ち主だ。

このとき発売されたゲド戦記の挿入歌を収録したシングル「テルーの唄」は、オリコンで初登場5位、出荷枚数約30万枚を記録し、音楽配信での楽曲ダウンロード件数は当時のスタジオジブリシリーズの主題歌で最大の約65万件を記録した大ヒット曲だ。

美しいピアノの伴奏とともに、その澄み渡った歌声。

心が震える一曲とは、まさしくこの曲のためにある言葉といっても過言ではないだろう。

Amazonリンク テルーの唄 (ゲド戦記 劇中挿入歌)

懐かしい感じの日本風のテルーの唄を歌う手嶌葵は、ジャズとは無縁のように思われる。

だが、手嶌葵は、中学時代に聴いたルイ・アームストロングのムーン・リバーに衝撃を受けてジャズ好きになったそうだ。

それゆえ、手嶌葵にとって、ジャズは彼女の音楽のルーツともいえるものだ。

その手嶌葵が歌うバードランドの子守唄は、切なくも美しい旋律の鼻歌から始まり、子供の頃の薫と母親の哀しい別れの記憶を思い起こさせる。

だが、その後に続く手嶌葵の美しい歌声は、包み込むような優しさに満ちあふれ、聴く者をして感動させずにはいられないほどのクオリティの高さだ。

手嶌葵のバードランドの子守唄は、このサントラの中で、もっとも哀しくも美しいソングといえるだろう。

薫と母親の再会のシーンを読むときに、この曲をリピート再生しながら読んでみよう。

手嶌葵の優しく包み込むような歌声とともに、紙面からあふれでる薫と母親の再開の想いの奔流に、菅野よう子による演出がいかに素晴らしいものであるか、心の底から実感できるだろう。

【第18曲】Four

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第18曲はFour。

ジャズの帝王マイルス・デイヴィスが1964年に録音し、1966年にリリースしたライブアルバム「Four & More」の中の1曲だ。

Fourは、マイルス・デイヴィスの作品だとよく誤解されているが、実は、アメリカのジャズサックス奏者のエディー・クリーンヘッド・ヴィンソン作曲のスタンダード・ナンバーだ。

ちなみに、エディー・ヴィンソンは、毛髪矯正製品に含まれる灰汁成分により誤って禿げてしまったため、クリーンヘッド(クリクリ坊主)というニックネームがついたそうだ。

「坂道のアポロン」では、淳一が東京へ行くため夜行列車で長崎を去る前に、淳一と最後の果たし合い(セッション)をすべく、千太郎が送った果たし状に応じて演奏する。

原曲では、実に6分以上もの長きにわたって、帝王マイルスのトランペットとトニー・ウィリアムスのドラムの演奏が延々と繰り広げられる。

トニー・ウィリアムスは、神業ともいえる超高速のシンバルとドラムの連打を得意としており、若干17歳でトニーがマイルスデイヴィスのグループに加入した後、超高速のビートでマイルスを煽りまくり、負けじと焦ったマイルスがトニーのスピードに対抗するため、年を追うごとにテンポが早くなっていったそうだ。

実際、原曲のFourを聴いていると、マイルスとトニーが初っ端から超高速の演奏で飛ばしまくり、互いに相手を煽りまくって激しい殴り合いをしているかのようだ。

「坂道のアポロン」では、淳一と千太郎がマイルスとトニーよろしく、激しい掛け合いを通じて本気の殴り合いをする。

(↓)千太郎と淳一の最後のセッションにして「本気の殴り合い」。その凄まじいまでの迫力に薫も律子の親父も唖然とする。セッションを通じた2人の男の熱き勝負は、数ある「坂道のアポロン」のセッションの中でも圧倒的な迫力に満ちている。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

サントラでは、トランペット担当の類家心平とドラムス担当の石若駿が、このときの熱い演奏を再現し、2人の男の激しい殴り合いを再現している。

サントラのFourは、わずか1分35秒しかないのが名残惜しい。

個人的には、原曲と同じく6分以上の長きにわたって、2人の殴り合いをとことん聴きまくりたかったと思う曲である。

【第21曲】Milestones

Amazonリンク MILESTONES

第21曲は、Milestonesだ。

Milestonesはもともとはマイルス・デイヴィスの代表曲の1つだ。

このアルバムはマイルスが初めてモード奏法を実践したアルバムといわれている。

モード奏法とは、コード進行に縛られず、1つのモード(中心音のある特定の音列からとった一連の音の並び)に従って、演奏する手法だ。

モード奏法で演奏されるジャズをモード・ジャズという。

難しい音楽理論を抜きにしてざっくりいうと、モード・ジャズとは、コード進行に基づく従来のビバップやハード・バップよりもアドリブの自由度が高いジャズのことだ。

第2回のフリー・ジャズの説明でも書いたが、ジャズの歴史は、

ルールに従った従来の演奏スタイル

 ↓

誰が演奏しても同じような演奏になりマンネリ化

 ↓

従来のルールを破る新時代の革命児の登場

 ↓

より自由なアドリブを重視した個性的な演奏スタイルの確立

という流れで進化してきた。

マイルス・デイヴィスは、このような流れの中で、つねに最前線に立ってジャズの進化を引っ張ってきた革命児であり、それゆえモダン・ジャズの帝王として、当時のジャズ界に君臨してきたのだ。

Milestonesは、マイルス(トランペット)とコルトレーン(テナー・サックス)とキャノンボール(アルト・サックス)の3管編成による歯切れのいいスタッカートから始まる、渋くて格好いい一曲だ。

このマイルスによる原曲を、ビル・エヴァンスがピアノトリオでカバーしている。

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マイルスのMilestonesはひたすら渋くて格好いいが、ビル・エヴァンスのMilestonesはひたすら情熱的で格好いい。

しかしながら、高校3年生の文化祭の出し物として、このモード奏法ばりばりの曲を演奏するのは、果たして選曲としてどうだろうか?

しかも、薫たちは、よりにもよってベース奏者に律子の親父を迎え、男2人+中年親父のむさ苦しいトリオで、女の子の物量で攻めるオリンポスと対決しようとしていたのだ!

だが、実際にサントラを聴いてみると、そのような心配は杞憂だったことがすぐにわかる。

なぜなら、ビル・エヴァンスばりに情熱的な薫のピアノソロの旋律が実に素晴らしいのだ!

また、中盤から始まる律子の親父のベースソロは、あの千太郎をして、

「うほっ しっびれるー」

といわせるほどの格好良さだ。

そして、その後の千太郎の気合いの入りまくったドラムソロ!

正直やりすぎである。

これだけのクオリティの高さなら、仮に律子の歌がなかったとしても、きっと文化祭でオリンポスといい勝負になっていたに違いない。

【第23曲】Kaoru & Sentaro Duo in BUNKASAI

第23曲は、2年の文化祭における薫と千太郎のデュオだ。

この曲は、薫のどことなく幻想的かつブルージーなMy Favarite Thingsのピアノソロから始まる。

そこに千太郎のドラムが入り、薫を挑発するように勢いを増し、薫も千太郎の挑発に応えるかのように激しくピアノを叩く。

が、中盤で突然、Someday My Prince Will Come(いつか王子様が)にチェンジする。

「勝手に変わり身の術」

と薫が名付けるテクニックを天才ピアニストの松永貴志が再現するさまは、まさしく見事というほかない。

千太郎のドラムを演奏するのは、同じく天才ドラマーの石若駿だ。

だが、このSomeday My Prince Will Comeは、ビル・エヴァンスの原曲からは似ても似つかない激しい曲だ。

まるで王子様がふたりで仲良くケンカしながら帰ってきたみたい 自分達の国に

と律子が感想を抱いたように、ピアノとドラムの激しいたたき合いだ。

そして最後は、おなじみのMoanin’だ。

立ち上がったままMoanin’を弾く薫。

3分32秒という長さをまるで感じさせない密度の高く、曲を聴くだけであの感動的な文化祭のシーンが心に蘇ってくる素晴らしい名演だ。

(↓)文化祭で演奏する薫と千太郎。「坂道のアポロン」で一番感動的な名シーンである。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

曲を聴きながら、原作を読んでみると、薫と千太郎の心の動きまで完璧に音楽で再現されていることに驚くだろう。

しかも、さらに驚愕なのは、演奏が終わった後、8秒間の間(無音部分)も録音されている点だ。

この8秒間の間こそが重要なのだ!

なぜなら、この間は、薫と千太郎の演奏に驚愕したあまり、思考が停止してしまった聴衆の衝撃の感情を表しているからだ!

(↓)驚愕のあまり聴衆が絶句するこのシーンまで再現されているのだ。この8秒間の間があるからこそ、聴く者は、存分に曲の余韻に浸ることができるといえるだろう。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

このように、このライブは、菅野よう子によって、緻密なまでに計算され尽くした最高の演出が生み出した最高のライブであり、それゆえ、聴く者をして感動させずにはいられないのだ!

アニメジャズが原曲を超えた!

そういっても過言ではない一曲である。

【第24曲】Someday My Prince Will Come

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第24曲は、Someday My Prince Will Come(いつか王子様が)だ。

この曲はもともと、ディズニーのアニメ映画「白雪姫」の挿入歌だったが、ジャズ・スタンダードとしても知られている。

実際、マイルス・デイヴィスやオスカー・ピーターソン、ビル・エヴァンスなどによりカバーされ、さまざまなヴァージョンが録音されている。

「坂道のアポロン」では、

「薫君 ピアノトリノならビル・エヴァンス聴いてみたらいい

 これに入っとる”いつか王子様が”って曲な

 これ女の子の目の前で聴かせたらイチコロばい

 甘くてロマンチックな曲やけんな」

という淳一のアドバイスを受けた薫が、この曲を練習して律子に披露する。

さすがに、女性にモテまくりのイケメン兄貴・淳一のチョイスだけあって、いかにも女性受けしそうな甘くてロマンチックな曲だ。

薫の弾くSomeday My Prince Will Comeは、ビル・エヴァンスよりもはるかにゆったりとしたテンポで、ひとつひとつ美しいメロディをつぐんでいく。

(↓)2人きりの地下室で、薫は律子への想いを込めてメロディをつぐんでいく。天才ピアニスト・松永貴志が演奏するSomeday My Prince Will Comeは、律子の幸せを願う、薫の想いを見事までに再現している奇跡的な演奏といえるだろう。

引用 「坂道のアポロン」小玉ユキ

上のカットにあるように、この曲は、

「少しでも幸せな気持ちになってもらいたい」

という、薫の律子への願いが込められている。

そのため、この曲を聴いた後はなぜか癒やされるというか、人の幸せを願いたくなるような、不思議な気分になるのだ。

そういう意味で、この曲はまさしく、薫の律子への愛がこもった最高のプレゼントといえるだろう。

【まとめ】「坂道のアポロン」はジャズ入門者に最適

以上、「坂道のアポロン」の素晴らしさについて紹介した。

一般に、ジャズは敷居が高いと言われるが、そういうジャズ初心者のために、この「坂道のアポロン」のサントラを最初に勧めたい。

というのも、このサントラは、モダン・ジャズの全盛期である1960年代のスタンダードナンバーがこれでもかというほどに盛り込まれているからだ!

そして、マイルス・デイヴィスやチェット・ベイカー、ビル・エヴァンスなど、気になる作曲家の曲が見つかったら、次に、その曲の入ったアルバムを聴いてみることをオススメする。

このようにして、お気に入りの曲を少しずつ広げていくことで、ジャズの敷居を簡単にまたぐことができるのだ。

私のお勧めは、「坂道のアポロン」のサントラに収録された曲のうち、上でとりあげたスタンダード・ナンバーだけを集めたプレイリストを作ることだ。

このようにすれば、薫達が生きてきた黄金時代のジャズの名曲のみを繰り返し堪能することができるのだ!

だが、あまりやり過ぎると、菅野よう子に怒られるので注意してほしい!

あと、ジャズ初心者には、ビル・エヴァンスのアルバム「ワルツ・フォー・デビイ」が特にお勧めだ!

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このアルバムは、ジャズ初心者でもなじみやすい美しいメロディーが多く、とても親しみやすいので初心者にお勧めだ。

特に、女性に絶大な人気のあるアルバムだ。

こういう曲が流れているおしゃれなレストランで食事をすれば、ロマンチックなムードになって盛り上がること請け合いだ。

イケメンの淳兄もお勧めのビル・エヴァンス!

最後に、淳兄の名言で、締めくくることにしよう。

これ女の子の目の前で聴かせたらイチコロばい

(ただしイケメンに限る)(←おい)

というわけで、あなたもジャズ入門に最適な「坂道のアポロン」のサントラを聴いて、華麗なるアニメジャズの世界に足を踏み入れ、充実したオタクライフを存分に満喫してほしい。

オタクパパより愛を込めて!

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